“隈研吾”富岡市庁舎

“隈研吾”富岡市庁舎

2019年4月12日

概要

群馬県富岡市の新市庁舎。明治時代に官営製糸場「富岡製糸場」が創業。中山道の宿場町としても賑わいを見せていました。この地にあった当市役所は「富岡製糸場」からは徒歩10分程度、上信電鉄「上州富岡駅」から徒歩数分の場所に位置。

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老朽化や市町村の合併などの理由から建て替えが計画されました。広く市民の声を受け入れながら、公募型プロポーザルにより設計者を決定する流れを作りました。駅前に市役所機能を移転する事例も増えつつありますが、もともとの庁舎が駅前にある点で駅集約型の都市と言えるます。行政や議会の場であるだけでなく、災害時防災拠点、駅前の活性化や各イベント開催など多目的な庁舎として「市民とともに進化する安心安全な100年庁舎」を目指しています。

設計と施工会社

上州富岡駅から富岡製糸場へ抜ける動線を敷地内に確保し、この動線を中心にヒューマンスケールの建物群を配置、展開する手法などが評価され、隈研吾建築都市設計事務所が選定されました。隈事務所は庁舎の実績も多く、豊島区庁舎、長岡市庁舎、檮原町庁舎などをこれまで手掛けています。東京都内の近作では「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」、「根津美術館」、「明治神宮ミュージアム」、「高輪ゲートウェイ駅」、「歌舞伎座タワー」、「東京中央郵便局JPタワーKITTE」など多数の物件で精力的な活動が続けられています。設計公募には約50社が参加し一次通過した5社の公開型プレゼンテーションにより争われました。次点は千葉学建築計画事務所。地元富岡の建設業者により構成された「タルヤ・岩井・佐藤共同企業体」が施工を手がけました。

建築の特徴

「しるくる広場」を中心に行政棟と議会棟を90度振って分割配置して囲み、棟の谷に向かって広場を伸ばしていくことで、富岡製糸場へと延びる動線を作り出し、奥へ人々を引き込んでいきます。庁舎の教科書的には行政エリアは下階、議会エリアは上階というプランニングが一般的ですが、街と建物のスケール感を合わせるためあえて分散配置してます。建物は多面的な屋根を持ちつつ、越屋根を積極的に使っています。役所的な圧迫感を和らげるとともに、日射制御、通風など環境面でも有利に働かせる計画です。

戸建住宅で活用するような環境機能を取り入れ、機械的なエネルギー消費を積極的に削減しようという面でも100年庁舎を意識していることが分かります。事実、富岡製糸場という150年近い歴史を持つ施設が現存しているなかにおいては、100年という数字だけを見れば決して過大ではないですが、現代的な手法に頼りすぎると陳腐化するのも早くなりえます。評価は100年先に預けるのではなく、定期的な事後評価の積み上げが大切だろうと思います。どう使われたのか、どのような設備面に課題があったのか、どの点で評価が高かったのか、掛かったメンテナンス費用などの分析の積み上げこそに100年先のあり方が変わってくるのではないでしょうか。

広場では多くのイベントに対応。庁舎というよりは小学校のスケール感。

右下方向が上州富岡駅、左上方向が富岡製糸場。谷状の建物配置に広場が割り込んでいき、動線を作り出している。
議会棟と行政棟の狭間から駅方向を見る。
東屋から行政棟入口方向を望む。軒天井や壁の化粧材に合板を多用している。メンテナンスは必要だろう。
行政棟入口付近より議会棟を望む。

アクセス、見学

上信電鉄上州富岡駅から徒歩数分。駅と製糸場の見学拠点としてもちょうど良い位置にあります。2018年に完成した「富岡商工会議所」も徒歩圏内。

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