概要
「GINZA SIX」は東京都中央区銀座にある商業施設、オフィス、ホールなどからなる複合施設。銀座松坂屋を含む10数棟あった既存建築を整理し、道路の区画変更も伴う再開発事業として計画されました。商業施設だけでも50,000m2ほどあり、銀座でも最大規模を誇る商業施設が誕生しました。
設計
基本設計と外観デザインは谷口吉生氏が担当。これまで世に送り出してきた作品数は決して多くはないものの、徹底した作品主義で知られており、同時並行では2件までしか仕事を受けない、というスタンスながらも優れた実作で建築界における評価を確固たるものとしてきました。これまで「土門拳記念館」、「葛西臨海水族園」、「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」、「ニューヨーク近代美術館新館」、「法隆寺宝物館」、「鈴木大拙館」、「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」、「つくばカピオ」など、どれもが代表作と言えるほど完成度の高い作品で知られています。2021年には自身が設計した「長野県信濃美術館・東山魁夷館」の隣に完成した「新・信濃美術館」の設計プロポーザルにおいて審査委員長を努めていました。
銀座は表参道と並び日本における建築家のショールームとして「ルイヴィトン銀座並木店」、「ルイヴィトン銀座松屋店」、「ミキモト」、「ミキモト2」、「UNIQLO TOKYO」など数々のブランド旗艦店が軒を並べるほか、商業施設としても「GINZA PLACE」、「東急プラザ銀座」、「松屋銀座」など多様な建築タイプが林立しています。そのような中、谷口吉生氏がどのような手法で巨大商業施設のデザインを取りまとめるのか注目されていました。
共同設計は鹿島建設の設計部門「KAJIMA DESIGN」。施工も担当。設計は設計事務所、施工はゼネコンという分業スタイルが一般的ですが、国内の大手ゼネコンには社内に設計部を古くから有しており、民間事業を中心にビルや商業施設、タワーマンション、研究施設、工場など多くの作品を残すなど、KAJIMA DESIGNは高い施工技術に裏打ちされた設計組織を持ち合わせています。
大手のゼネコン設計部門は公共工事の設計が原則受注しにくい制度のため、世間的な知名度(公共建築が少ない)が上がりにくいという側面を持っています。これは公共的なプロジェクトの設計や施工の入札を分業により公募しており、設計と施工の会社は同一の会社や資本関係にある組織は両方の業務を受注できないためと言われています。
一方で鹿島建設(KAJIMA DESIGN)は三菱電機やCanon、資生堂、イオン、アステラス製薬、中外製薬などの大企業建築を多数手掛けており、近年では八海醸造「魚沼の里」にある「八海山雪室」、「猿倉山ビール醸造所」など多様な物件の設計・施工を手掛けています。
建築の特徴
地上13階建てのうち、6階までが商業施設、7階より12階までがオフィスとなった複合施設になっています。オフィスフロアの外周部にはステンレス製の「ひさし」を設け、6階より下の商業施設はブランドの変化に対応できる「のれん」と位置づけています。上層階はオフィスとして不変である一方、低層階は時代のニーズに対応したブランドの着せ替えができ、ブランドそのものの姿が低層部の建築デザインを造るという「変わるところと変わらないところ」を意識した建築です。
谷口氏の作品は端正で無駄のない美しいプロポーションが特徴的であると言えます。この銀座シックスは国内最高の路線価を誇る銀座ということもあり、必然的に高容積率が求められ、また商業的にはその視認性を高めなければならないという点、そして街区の再開発というプログラムが組み合わさり、建築家としての高度なトータルコーディネイト力も求められた物件であるように思います。建築は大きくなればなるほど、デザインが難しくなる面がありますが、決して作り込まず、シンプルに、そしてコンテンツや人々の動きに応じた解答としているように感じられます。