2021年4月10日オープン 長野県立信濃美術館

2021年4月10日オープン 長野県立信濃美術館

2020年10月16日
建築

概要

長野県長野市善光寺東側、城山公園内にある県の郷土作品を展示する「信濃美術館」と長野の風景画作品を数多く残した東山魁夷の作品に特化した「東山魁夷館」。2つの施設は隣接して信州長野の美術展時拠点として運営されてきました。信濃美術館は老朽化や機能改善のため建て替えが決定し、城山公園の一部改良も含めて2021年4月にオープンしました。東山魁夷館は先行リニューアルオープン済み。

善光寺のすぐ脇にある公園内に東山魁夷館 、そして建て替えられる信濃美術館がある。県「コンセプトブック」より

設計プロポーザルによる設計者の選定

この事業はプロポーザル方式(主に提案力により優れた設計者を選定)により基本設計・実施設計者を選定する方式が取られ、参加した設計チームの層が非常に厚いことで話題となりました。美術館の設計は建築家にとってはまさに「花形」。建築とは美術と技術の複合であり、建築自体もその作品と同位となりうる存在。公共美術館の設計実績がその後のキャリアを左右することも少なくありません。最終審査に進んだSANNAが「金沢21世紀美術館」で見せたその後の活躍がそうであったように、県立レベルの美術館プロジェクトのバリューは非常に高いものがあります。

プロポーザルは33社から11社に絞られ、その中から最終審査に進んだ設計グループは4者。1.(有)SANNA 事務所、2.栗生総合計画事務所・山下設計JV、3.陶器二三雄建築研究所、4.プランツアソシエイツ。

2.栗生総合計画事務所は「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」や「平等院鳳翔館」、「岡崎市美術博物館」などメモリアルな施設や公共美術館など実績多数。3.陶器二三雄建築研究所は一つの仕事をじっくりこなす作品主義の建築家で「国立国会図書館西館」を代表作として「森鴎外記念館」などを設計。審査委員である谷口吉生氏の設計に対する姿勢と近いものがあるかもしれません。1.SANAAは妹島和世氏と西沢立衛氏が共同代表として「ルーブル・ランス(フランス)」、「日立駅」、「日立市庁舎」など国内外で実績多数。2010年プリツカー賞受賞。県内の「飯田市小笠原資料館」はSANAAの初期の作品。西沢立衛氏は「軽井沢千住博美術館」を設計。

プランツアソシエイツは宮崎浩氏を代表とする事務所で「タイ王国大使館」、「インド大使館」、「沼田市役所」、「安曇野高橋節郎記念美術館」など守備範囲が広い精力的な活動をされています。県内松本市の「松本平広域公園陸上競技場」は宮崎氏が審査委員長を務めました。隣接する東山魁夷館を設計した谷口吉生氏は審査委員として参加。”相棒”となる美術館の設計者を審査する立場となりました。

"青木淳共同設計最適選定"松本平広域公園陸上競技場建替計画

概要 長野県松本市にある陸上総合競技場の建替え計画。1977年に建築され約40年…
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最適候補者はプランツアソシエーツ

最終審査の結果、最適候補者(最優秀案)は「プランツアソシエイツ」に決定しました。審査の講評として「建築としての作品・機能性はもちろんのこと、将来的な拡張性、県・美術館関係者や県民と一体となって作り上げていく力量」という点で最適と判断されました。美術館が単に芸術家の美術展示の場というだけでなく、アートを主体とした県民コミュニティーの構築や県民レベルの展示会などを通して、美術と県民の垣根を小さくしていくという方向性、またこの新美術館の建設・運営を通した活動も含めて美術や景観などに対する意識を高めていこう、という審査委員の意図が感じられる結果となりました。最終候補者の顔ぶれを見ると若手というよりもベテラン領域の設計者が多かったのも「デザイン」だけではない、「経験」に裏打ちされた「資質」も重要視された結果と見ることができます。

建物概要と特徴

新信濃美術館のコンセプトの4つの柱は「ランドスケープ・ミュージアム」、「美術による学びの支援」、「信州の地域文化の多様性を活かす」、「世界水準の美術作品の展示と信州美術の紹介」として、隣接する善光寺と東山魁夷館とのつながりを重視しました。

県「コンセプトブック」より

公園内の敷地は傾斜になっており、この敷地形態を活かした計画が求められました。極力低層化しつつ公園の風景に溶け込み、ランドスケープの一部として美術館があるような存在を目指しました。建物内の構成は1階レベルをエントランスとして、ホワイエにミュージアムショップやライブラリーを配置。4つある主展示室のうち1つを1階に置き、3つの展示室は2階にレイアウトしています。2階レベルで隣接する東山魁夷館とブリッジで繋がり、眺望の良い西側にカフェを配置しました。3階はランドスケープ化しています。

善光寺側からのエレベーション。高低差を活かした計画としながら、全体の印象を低く抑えている。
東南側からの視線。
南側のエレベーション。

 

東側からの視線は視覚的に低く抑えているがよく読み取れる。白い筐体の横に入れられたスリットにより、全体の水平感を高めるとともに、しっかりと立体感を示している。
東側からのエントランス。開いた先の視線には善光寺が控える。重要な景観要素や風景を分断しない工夫が見られる。
長く緩いスロープの存在が全体の水平感を高めている。
エントランス。深く薄い庇がかかる。
信濃美術館と東山魁夷館の間と庭。奥には善光寺が見える。
ガラスの渡り廊下と繋がる先には東山魁夷館が佇む。互いが周囲に対して主張していない。