“妹島和世設計”日立市新庁舎

“妹島和世設計”日立市新庁舎

2019年4月5日

概要

世界的に活躍する地元日立出身の建築家“妹島和世”が共同主宰するSANAAの設計。先立って庁舎棟が完成した後、屋外広場の建設が続いていましたが、2019.3末に完成し一体化が図られました。

日立市役所新庁舎は既存庁舎が3.11により被災したことや老朽化、狭隘化、分散などの諸問題の解決を図るべく設計提案競技により建て替え計画がまとめられました。

近年、市庁舎に求められる機能は高度化しており、十分な災害対応機能の確保や従来の行政サービスに加えた新たなニーズへの対応などが期待されています。

連続する円型の屋根がリズミカルなスペースを生み出している。大屋根部分は鉄骨造。
庁舎棟1階のロビー。半円屋根はここからスタートして右側のオープンスペースへ連続している。床はコンクリート直均しの上、表面強化材仕上げ。JR日立駅と同様の仕上げ。

設計

設計は日立出身の妹島和世が共同代表を務めるSANAA事務所が設計コンペにより選出。妹島氏はJR日立駅の設計監修に続き、街を代表する建築物の設計に関わることとなりました。県内には「ひたちのリフレ」、「古河総合公園飲食施設」などの作品があります。

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"妹島和世設計"ひたち野リフレ

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妹島和世設計"古河総合公園飲食施設"

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二次審査は内藤廣や山本理顕などの著名建築家に日立建設設計+日本設計、日総研などの組織設計事務所により競われ、SANAAが最優秀賞。日立建設設計+日本設計が優秀賞に選出されています。

今回のコンペでは「地元出身の世界的建築家」 VS 「地元企業系設計事務所」の構図によって競われています。日立市は市の名前のとおり「日立製作所」を中心とした日本を代表する企業城下町として発展してきた経緯を持ち、人口の3割が日立に関係する仕事に関わっていると言われています。

人口の自然減は都心部以外の街ではどこでも直面している課題です。そのような中、企業城下町では企業が立地し続けることが人口維持や町の活性化を図れるという強みがありました。しかしながら近年は日立系列会社の再編などに伴い人口の減少が続いていたもの事実で、市としても日立頼みに出来ない現状にも直面しつつありました。

もちろん設計競技は提案に基づき厳正に行われていますが、市の代弁者となる審査員は市役所建設という機会を捉えて、またJR日立駅の状況も見つつ未来志向を選択したということも言えるかもしれません。

設計事務所案で日立の工業製品「タービンの羽根」をイメージした「ツイストルーバー」という外観デザインを取り入れようとした点は上記の構図を象徴していたと言えるのではないでしょうか。

建築の特徴

設計競技では市庁舎としてまとめられた7階建の庁舎棟とその前面に設けられる半屋外スペース「市民の広場」が新たな行政サービスの拠点として期待されると評価されました。

半円の連続した屋根は1階低層部のロビーから連続、反復してオープンスペースへ展開されています。ほぼ矩形の庁舎棟とリズミカルな屋根を相対させつつ繋がれています。

大屋根の円のR(半径)は一定ではなく前方に行くほど大きくなっている。

庁舎棟から開始する屋根は1.5スパンまではガラスで覆われ、庁舎のロビーとなっている。構造的には一度縁が切られ、そこから鉄骨造の大屋根が伸びていく。
庁舎棟側から多目的ホール棟を眺める。大屋根の中心部は芝が敷かれ、屋根が解放されている。屋根そのものよりも地面に落とす影の方に強みがある。
大屋根の中にやや偏心した位置にある開放部。屋根の妻側のエッジは目線では限りなく薄く軽快。空と屋根との縁を薄くすることで境界がより際立っている。白く塗装されているため、分かりにくいが鋼板のR加工の屋根は加工技術や施工難度は非常に高いと言える。
屋外広場は常設としてはバスターミナル、バリアフリー駐車場がある。イベントや災害時対応のスペースとして活用が期待されている。
外は十分な明るさの時間だが、屋根面積が広いので場所によってはやや暗い印象。美術館であれば構わないが、市庁舎のエントランスとしてはもう少し明るさを取り入れた方が良かったかもしれない。
広場内の案内図。シンプルだが一瞬迷う。周辺案内図であればスケールを落として周辺範囲を広げた方が良かったかもしれない。

また、多目的ホールやレストランといった機能をあえて庁舎等から切り離し、オープンスペース側に配することで人々の活動を街側へ展開していこうという意図も試みられています。

1階ロビーを反対側より見る。右側はカウンターが並びその対面(左側)は店舗や展示スペースが並ぶ。
建物(庁舎棟)の背面。

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アクセス

車の場合は常磐自動車道日立中央ICより5分程度。電車はJR日立駅よりバスで10分。駐車場は開放されているため、駐車は可能。