“平田晃久設計”太田市美術館 図書館

“平田晃久設計”太田市美術館 図書館

2018年12月25日

概要

2018年、群馬県太田市の太田駅前に開館した市立図書館と美術館の複合施設。衰退しつつあった駅前の賑わいを取り戻す核として文化施設の建設が計画されました。太田市は群馬県第3位の人口(約22万人)を抱える都市で、全国的に人口減が進む中で太田市は人口が微増している自治体で、自動車メーカー「スバル」の企業城下町として知られています。

このような背景から市は車社会が顕著で郊外型のショッピングモールなどに人々が流れ、駅前力の低下が指摘されてきました。

図書館を中心とした文化施設を駅前の一等地に開設するということでは茨城県の「土浦市立図書館・アルカス」や栃木県の「那須塩原市立図書館みるる」などがあり、市民サービスの向上という目的に都市の再開発のツールとして活用されつつあります。

"駅直結図書館"土浦市立図書館アルカス

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"那須塩原黒磯にある森の図書館"「みるる」

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設計

設計は平田晃久建築設計事務所。市の設計プロポーザルによって最優秀者に選定されました(次点は「一級建築士事務所 株式会社アトリエ・天工人」)。「街に対して徹底的に開いた計画」であること、「利用者にとって新たなサードプレイスとなること」、などの設計要件に対し、最も優れた提案であると評価されました。同氏は本施設で村野藤吾賞、BCS賞を受賞しています。

平田晃久氏は京大出身で現在、京大教授を務めながら建築設計事務所を運営するプロフェッサーアーキテクトてして活動しています。事務所ビルや共同住宅などで複数の実績を持ち、近年では新形態カプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」を全国的にデザインしているほか、台湾などにも実績を有しています。

建築の特徴

建物は5つのボリュームの周囲にスロープを巡らせ、建物内の主な移動手段としています。多くの図書館の形態は効率的な書棚の配置・整理によって「本の見つけやすさ」を重視する一方で、本施設は「歩行空間の中にいろいろな本がある」という場を提供し新たな本との出会いを促しています。旧来の図書館は蔵書数やレファレンス機能、利便性を高めることこそ優れた図書館であるという「図書館学」を追求した形が最適として考えられてきました。利用者(納税者)への最大の還元手法として認知されてきたからです。

しかし、少子化が顕著に進む地方や地域の特色を多方面にアピールする必要性などから、公共文化施設の中心である「図書館」が量から質への転換が求められつつあります。そういう意味でも本施設は「貸出型」→「滞在型」図書館の先駆的的事例といえます。

建物によって賑わいを創出する、という役割から本建物は外部に開いて計画されています。図書館というと本のセキュリティ確保のため、出入口ゲートとなるBDS(BOOK DITECTION SYSTEM)がありますが、本施設はこれがありません。この「無手法」により、出入口を複数設けることが可能となり、公共図書館にありがちな「管理されている感覚」はほとんど無くなっています。また、スロープ動線を外側に張り巡らせることで外部に対して人の動きを視覚化しています。建物にオモテ、ウラを作らないというコンセプトにより建物の表情を全方位的に創っています。

駅周囲は多くの地方中堅都市がそうであるように、太田市も建物群の風化からくる街の後退感は否めません。この建物はコンパクトながらも運営を含めたデザインやコンテンツが練り上げられ計画・建設されました。来館者数や満足感は図書館としての評価を判定することは可能ですが、まちづくりに対してどのような還元があったかは数字では表されません。都市の表層が時間軸によってどのように変化、または維持していくのか長いスパンで見ていくことが必要かもしれません。

手書き風のパンフレットが斬新。

街の中に路地状の坂があるような印象。
屋上庭園というより屋上に小山がのっている感じ。このフロアで駅のプラットホームと同レベルとなる。
1階駅側には「Coffee & Things Oh!」というカフェが入る。名物のソフトクリームのほか、バリエーションのあるメニューで利用者を迎える。ボタンなど地産品を扱うショップが併設されている。

アクセス、開館時間

開館時間:10:00 ~ 20:00(日曜、祝日は18:00)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、毎月最終火曜日

駐車場:有