“那須塩原黒磯にある森の図書館”「みるる」

“那須塩原黒磯にある森の図書館”「みるる」

2020年7月15日

概要

2020年9月1日に正式にオープンしました。当面は人数上限(300人)や利用時間制限(2時間)などの対策をとりながらの運営となっています。

那須塩原市は栃木県北部にあり那須町と隣接して那須エリアを構成する自治体の一つです。旧黒磯市と塩原町、西那須野町が合併し現在の那須塩原市となりました。

黒磯駅周辺は明治、大正期から建っている石造りの建造物が点在する風情ある街並みで、近年ではこのような建物をリファインしたカフェなどが立ち並び、那須エリアの観光拠点として注目されています。

「みるる」はその中心となるJR黒磯駅前に誕生する市立図書館で駅前の立地を最大限に活かした公共施設として注目されています。

JR黒磯駅前。市立図書館の建設に合わせ駅前の再整備も行われた。

「駅前図書館」ということでは、「茨城県土浦市立図書館」や「群馬県大田市立図書館」など、街の人口減少や商業施設の郊外化の影響などにより、活気が失われつつある駅前の再生の拠点として近年注目されている整備手法です。

設計概要

建築設計はUAoの伊藤麻里氏。公募型プロポーザル方式により選定されました。伊藤さんは地元那須出身。図書館には何が必要か。住民としての目線、そして海外での経験などからこの図書館を建物としてだけではなく運用面に及ぶ提案も設計活動として捉え形にしています。

2階より駅方向を見る。図書館としての主階は2階。

書店のような図書館というのはこの10年で様々な自治体で生まれてきました。質の良いインテリアにカフェスペース。従来の蔵書型の図書館からは比べ物にならないくらい進化してきたと思います。

しかし、この図書館は見た目だけではなく、長期的な視点で地域や住民の成長や生活の幅を拡げる仕組みを設計段階から議論を続けてきました。

平面をみると良く意図が伝わってきます。図書館としての機能は主に2階に上げ、1階は駅から南側に抜ける通路としての役割を持たせています。1階は中央を広い路地が通り、その両側に展示スペースやカフェが並び、さながら街中といった雰囲気を創出しています。

設計者はこの図書館を「森」と捉えており、具体的には「森のポケット」、「放射状本棚」、「リーフライン」という森の構成要素を主として、利用する人々が自然の中で「機敏」を感じ取り、色々な気づきを図書館という場を通じて文化的な蓄積や活動に転換させていきたいというコンセプトを取り入れています。

「放射状の本棚」は木がそうであるように幹を中心として放射状に枝が伸びています。ここでは本棚が放射状に広がることで、利用者は中心から様々な本のテーマやタイトルに視線が移り、新たな分野との出会いや発見が促される仕組み。低く抑えられた書架がさらに視野を広げます。木と木(書架の中心)は近すぎず、遠すぎず、森にある木々のように関係を保っています。

「リーフライン」は天井に張られてた木のルーバーで「葉の裏」を表現しています。天井は、エリアごとに多面的な角度を持って張られており、これが緩やかに場の境界を作り出しています。ルーバーからの木漏れ日が床に照射され、森の中を散策しているかのような感覚を与えています。

「森のポケット」は窓際に面しており、木々の間のスペースに光が大きく差し込むような場で、展示など様々な利用が想定されています。その存在は利用者が感じ取りやすい配置となっています。

駅側入口から続く屋内通路「みるるAve」。館内ではあるが「通り道」という着想

「リーフライン」をイメージした2階の天井。葉の裏のよう。

館内カフェ

館内には公募により那須町の「森林ノ牧場」の入店が決定しています。

「森林ノ牧場」は飼育するジャージー牛から作られた生乳、チーズ、ソフトクリームなどが有名です。図書館と牧場カフェのマッチングは那須ならではといったところでしょうか。

図書館の目の前には那須・黒磯を代表するパン店「kanel bread」があります。小麦にこだわり、那須山の卵や牛乳を使った地場の旨味を凝縮したパンには多くの人が足を運びます。このような店が点在する黒磯の新たな拠点としても相乗効果が期待されます。

 

正面には那須エリアを代表するパン店「KANEL BREAD」がある。黒磯めぐりには是非立ち寄りたい。

アクセス、開館時間

JR東北本線黒磯駅から徒歩0分。車の場合は黒磯板室ICより15分程度。図書館隣りの駐車場は1時間以内は無料。