概要
「安曇野市庁舎」は長野県安曇野市にある市庁舎で、2005年に5町村が合併し安曇野市となり分散していた庁舎を統合する形で計画・建設(2015年完成)されました。安曇野市は松本市の北側に隣接した人口約9.3万人の自治体で、西側にそびえる北アルプスとそこから流れる多くの清流により、優れた自然景観を持ち、豊かな水資源を背景とした農業や産業が盛んな街として知られています。
設計
設計は内藤廣建築設計事務所JV(小川原設計・尾日向辰文建築設計事務所)で市の実施する基本設計プロポーザルにより最優秀案に選定されました。。内藤廣氏は「JR旭川駅」、「みなとみらい線馬車道駅」、「十日町情報館」、「古河総合公園管理棟」、「TORAYA TOKYO」、「とらや東京ミッドタウン店」、「とらや一条店」などの設計実績があり、早稲田大学出身ながら東大で教鞭を執り、副学長まで務めた経歴を持っています。新国立競技場の設計コンペティションにおいて審査委員長も務めました。
内藤氏が市内に設計した「安曇野ちひろ美術館」(2002年)は安曇野の顔の一つとして、開館以来多くの観光客を受け入れており、ワサビ農場などとともに安曇野の主要観光ルートに位置付けられています。二次審査では久米設計JV、日本設計JVと言いた国内大手組織設計事務所と競合しながらも最優秀案となりました。
建築の特徴
本計画は「質実剛健で、市民に喜ばれ、次世代へ引き継がれる市庁舎」をテーマとして、災害に強い市庁舎づくりが求められました。計画を前後して東日本大震災が発生しており、必然的にフォローすべき課題であったと思います。長野県を縦断する糸魚川ー静岡構造線を中心とする周辺断層が今後引き起こすであろう地震災害に対して、市庁舎としての災害時の司令塔としての業務継続性を維持するため、柱頭免震構造が採用されました。免震構造であることやコストの適正化といった面で市庁舎は整形のプランを基本として設計されています。
内部は1、2階を窓口業務を主体とする機能を中心に配置、平面の中心軸を利用者動線として、動線の両端に階段が設けられています。階段を含む吹き抜けの上部のトップライトから光を取り込み、整形建物のデメリットである光の不足を補いました。最上階となる4階には北アルプスや安曇野の景色が一望できる展望施設が設けられています。
建物には暖かく親しみやすさを感じやすい外装として、安曇野の保有林から切り出したヒノキの間伐材が用いられています。平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されていますが、地方公共団体では施工前より積極的に地場産材を公共建築に利用する取り組みが進められています。本建築では3層までの外装にヒノキが用いられているほか、内装材(エントランス、議場、吹き抜けなど)には県産のカラマツが多量に使用されています。
外部には層ごとにバルコニーが設けられ、非常時の避難ルートとして活用されるほか、木質外装の劣化を防げる目的、安曇野の強い日射を遮る庇として効果的に活用されています。最上階となる4階は外装を変化させることで建物全体の重心を低く抑える役割を持たせています。内藤廣氏は「人のいやすさ」をテーマに数々のの作品を生み出してきており、必ずしも流行を負わず、長い時の流れにも耐えうるデザインを目指してきており、本建築においては市庁舎として建築面で現代的な災害対応能力を備えつつ、高いレベルで安曇野の自然環境に調和するデザインにまとめられています。
アクセス
東名高速道路第2ICより約10分。駐車場(無料)あり。アウトレットから近いこともあり、時期や時間によっては混雑します。