“伊東豊雄”まつもと市民芸術館 文化の街松本にある狭小間口から伸びる音楽と芸術の複合ホール

“伊東豊雄”まつもと市民芸術館 文化の街松本にある狭小間口から伸びる音楽と芸術の複合ホール

2021年5月7日

概要

まつもと市民会館は長野県松本市にある芸術・音楽ホールで同一敷地に3代目として2004年に開館しました。グランドオペラ、演劇、コンサートなどの芸術・音楽の発信拠点として計画され、1800席ある主ホールでは毎年「サイトウ・キネン・オーケストラ」(小澤征爾氏総監督)による演奏が開かれることで知られています。

設計

建物の設計は「伊東豊雄建築建築設計事務所」。エスキースコンペで選定されました。伊藤氏は2013年に建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を受賞。代表作として「仙台メディアテーク(仙台市)」、「多摩美術大学図書館」、「長岡リリックホール」などがあり、国内外問わず数多くの作品を創出、茨城県水戸市には同類施設となる「新水戸市民会館」が建設中であるなど、現在でも第一線の活躍を続けています。また、幼少期に下諏訪町で過ごした時期があり長野県にゆかりのある建築家として知られ、「下諏訪町立諏訪湖博物館・赤彦記念館」(下諏訪町)、「信毎メディアガーデン」(松本市)、「大田区休養村とうぶ」(東御市)など県内での実績も複数見られます。

施工者である竹中工務店(竹中・戸田JV)は長野県では「養命酒健康の森」、「ハナマルキみそ作り体験館」、「ダイキンオー・ド・シエル蓼科セミナーハウス」など設計も含めた企業案件を手がけるほか、2021年には塩尻市の旧中山道宿場町奈良井で、約200年前の伝統的建造物を改修してホテル、レストラン、酒蔵を中心とした複合施設をオープンする計画を進めています。音楽ホールや劇場では「国立劇場」、「新国立劇場」、「北海道四季劇場」など国家的といえる作品の施工を行なっています。

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建築の特徴

県道沿いの狭い間口に対して長大な奥行がある敷地に本施設は計画されています。通りに面していながら周辺には住宅地があることや道路斜線が双方向に影響するなど立地条件の難しさがある中に劇場・音楽ホールという大空間を設けながら、大勢の利用者や裏方の動線処理していくというプログラム面の難易度が高い建築となりました。衛星写真を見ても「しゃもじ型」、「足形」のような全体配置となっており、劇場・音楽ホールの立地としては非常に稀であるということが分かります。

建物の外装と内装には「ガラス象嵌GRCパネル」が主に用いられています。GRCとは、耐アルカリガラス繊維で補強したセメント板(Glass fiber Reinforced Cement)でセメント板の延長にある製品です。このパネルにランダムに開けられた開口部にガラスが嵌め込まれ、昼間は光を取り込むとともに、夜間は外部に対して内部の光を灯火のように照らしています。GRCは「信毎メディアガーデン」でも採用され、外装に設けられるランダムな開口部は伊東豊雄氏の特徴的な手法で東京銀座の「ミキモト2」などでも見ることができます。

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主ホールは最大1,800人(大ホール)収容可能で750人(中ホール)まで調整が可能。4層の客席部分の天井が下がることで、客席数と用途を変更することが可能となっています。このホールは平面的に馬蹄型と言われ、舞台に対して客席が「Uの字」に配された形式が特徴となっており、観客間の視線が交差することにより臨場感が高められる配置とされています。

客席数約290人の「小ホール」は主に市民の文化活動に対応したサイズとなっています。「実験劇場」と言われるホールは主ホールの後ろに位置し、舞台と客席が反転して360席の基壇上の客席が配置されることで、新たな芸術活動を生み出す実験劇場として用意されています。

奥行の長い敷地形状。屋根は屋上緑化され、GRCとガラスを用いた外観により従来の音楽ホールにありがちな格式や伝統色は抑えられており、市民に親しみやすい芸術館に仕上げられている。
県道からの眺め。狭い間口に対して非常に奥行きが長い配置となっている。左側は道路を挟みNHK、右側は信越放送がある。
ピロティの上部にはレストランなどがある。
カーブを描きながら奥行方向に伸びていく。長大な形状が周囲に圧迫感を与えない工夫とも見てとれる